FAQ 賃貸管理トラブル集

礼金を取る事は、消費者契約法で問題とならないか。

礼金については、消費者契約法上無効ではないという地裁レベルの判決がある。ただし、いずれにしてもどのような性質の金銭なのか、その性質に見合った合理的金額なのか、契約時に十分に情報提供されたのかが問題となるので、それらの点を精査したうえで取り扱いを検討する事が望ましい。

返還後の費用請求

賃貸借契約終了時に敷金の精算をして、敷金を借主に返還し、オーナー宛の領収書を書いてもらい、いったん精算が終了した。ところが、その後、当該物件の排水管が詰まっていることが判明した。オーナーとしては、その補修代金を借主に負担させたいとの希望があるが、借主に負担させることはできるのか。
通常損耗でなければ、借主に負担させることができるのが原則であるが、問題は、すでに当該借主との敷金の精算が終了しているということである。排水管の詰まりが敷金返還時には発見できず、かつ、そのことが不合理でないといった点がクリアできるかを検討する必要がある。

敷金の返還請求権の消滅時効

一般の債権の消滅時効と考えれるため、10年(商行為に基づくものであれば5年)となる。

敷金の返還時期

原状回復につき、貸主側で工事等を行い敷金から差し引く場合、敷金の返還が遅れることは問題ないか。借主からは退去時に返還してくれと言われている。
敷金は借主が賃貸借契約上負うべき債務の担保であり、判例上も敷金返還と物件の退去は同時履行の関係にはないとされていることからすれば、原状回復のように費用が一定期間後に発生・確定するものについては、債務の確定に要する合理的期間であるとして、その期間分返還が遅れることは問題ないと考える。仮に即時返金を主張され、貸主もやむえなしとして応じるのであれば、代わりに担保の提供を求めるなど、後の原状回復費用の請求の際の担保措置を検討すべきであろう。

保証金返還請求権に質権設定がある場合

事業用賃貸借で、保証金につき、その一部を家賃と相殺する旨の即決和解が成立した。この保証金返還請求権に銀行の質権が設定されているため、契約終了時の返還に当たっては、相殺前の金額につき銀行に返還することになるのか。
敷金の性質を有する保証金の返還請求権は、貸主、借主間の債務を相殺した後の金額につき発生するため、質権の範囲もその相殺後の金額の限度にとどまる。したがって、契約終了時には、相殺後の金額につき対応すればよい(転付命令を得ている場合には銀行に返還する。差し押さえだけであれば借主と銀行で債権者を特定するまで供託ないし返還を留保する。)

退去後、借主に連絡がつかない場合の敷金の返還は

3月に退去した借主。敷金につき、退去時の合意に基づき原状回復費用を精算した残額を返還しようとしたところ、連絡がつかない。退去時に教えてもらった振込口座に振り込み返却してもよいか。
返済方法につき振込みによる旨指定があった。(だからこそ口座指定があった)と評価し、振込み送金し、合わせて明細を元の住所宛に送付する。(転居届けが出ていれば転送される。)という形で当面対応したらどうか。借主から連絡があったときには、これらの措置をした旨明確に回答できるよう、書面上も記録しておくことが大切である。

保証金の返還

店舗の定期建物賃貸借契約(5年)で、借主が貸主に対して1200万円の保証金を預けている。ところが、最近貸主の経営状態が悪化しているという噂があり、借主としては例えば、直ちに(契約期間中に)保証金を半分返還してもらいたいと思っているが、そのような主張ができるか。
貸主と借主で合意すれば、保証金の半分を返還する事も可能である。しかし、貸主の同意がなければ、借主から一方的に保証金を返還するように求める事はできない。

保証金償却特約

事業用の建物賃貸借契約において賃貸借契約の更新ごとに保証金を償却する特約がある。合意更新を2回した後、法定更新となって現在に至る。①法定更新の時も償却してよいか、②借主が当該建物から退去する場合の保証金残金の処理をどのようにしたらよいか。
まず、本件特約条項の文言上、法定更新の場合も償却を認める形になっているか否か、(償却を認める形になっている場合)償却の法的性格は何等を検討して判断する事になる。②について保証金残額は、未払い賃料等に充当の上、残金があれば借主に返金する事になる。

敷金全額と転居費用の請求(事情による)

昨年入居した入居者Aはペット不可との条件で入居した。その2ヵ月後に隣室にペット可そして入居者が入ったが、猫を飼っているらしい。

Aは猫アレルギーなので退去したいが、敷金全額請求と転居費用を請求したいとのこと。敷金は全額返還する予定だが、転居費用まで負担しなければならないか。
ペット可・不可は入居者ごとの条件であるので、原則として応じる必要はないが、隣室もペット不可かを入居者に確認されるのは酷であり、一方で、入居時の説明の際のやりとりによってはペット不可を希望する入居者の意向を確認すべき義務があったと認定さえかねない。

アレルギーの程度にもよるが、早急に対応した方がよいと思われるので、転居費用も負担した方が穏便に解決できるであろう。

返還金を借主が受領拒否した場合(訴訟を前提に)

居住用の賃貸物件を明渡し後に確認したところ、襖が10枚破れていた。この物件は、居住者が途中で入れ替わり(貸主の承諾あり、)居住者いわく前の居住者が行ったものだと主張。敷金の返還にあたり、修繕費用を差し引いて返還したいが、居住者は「銀行口座には振り込むな」として受領を拒否し、弁護士に依頼して争うとのこと。どのような対処が必要か。
振り込みで返還して何等問題ないが、相手方が明確に拒否している以上、他の方法を取りたいのであれば、内容証明郵便で受領を催告し、応じなければ受領拒否として供託するのが最終手段である。ただ、通常、相手方に弁護士が付いているのであれば、催告すれば、供託までは不要であろう。なお、居住者の変更が賃貸権譲渡の方式でなされた場合には、貸主の立場からは、前後の居住者は同一人とみなして、退去時の借主に金額を請求し、あとは居住者間で精算してもらうと考える事ができるのではないか。

借主の破産後に行う敷き引き

建物賃貸借契約が締結されていたところ、借主が破産して当該建物から退去する事になった。なお賃貸借契約について、貸主は借主から敷金60万円を預かっている。当該敷金から①未払い賃料10万円及び②敷き引き特約に基づく30万円を差し引いても問題ないか。
①未払い賃料については敷金から差し引く事は問題ない。ただし、②敷き引きの特約の有効性については個別事情に基づき否定する厳しい判決もあることから、当該特約に基づいて30万円を敷金から差し引くことについては問題が生じる可能性がある。

保証金につき、償却と、債務不履行部分の相殺との関係は

保証金の償却は、あらかじめの合意に基づく通常損耗補修費用等や、後払い賃料相当額の差し引きであり、それとは別に債務不履行があれば、その債務を差し引く事ができる。

礼金なら大丈夫か

敷き引き特約を無効とした判断した裁判判例があることから、敷金として受領していた金員を礼金として受領したいが問題ないか。
礼金につき、判例は、その法的性格を「賃料の前払い」と解して消費者契約法10条に違反しないとの判断したものがある。この判決の趣旨をそのまま受けう入れるとすれば、礼金として受領する金員については「賃料の前払いとしての実態」が必要とされるので契約の在り方、内容について十分確認しておくことが大切である。

敷金全額請求をもとめる借主に対する対応

保証金50万円につき敷き引き35万円の取りきめが契約時になされたため、その通りに処理したところ、借主から、敷引きは一切認めれないはずであるから全額返還せよとの要請があった。借主は裁判も辞さないとしている。どのように考えればよいか。ちなみに入居期間は5年間である。
敷き引き特約も、一切無効ではなく、敷き引きの趣旨、その趣旨にあった合理的金額か、及び契約時点での説明の在り方などが考慮される。契約内容及び契約時点で、どのような手続きがなされたのかを十分確認して対応すべき。仮に、上記の諸点で問題があるようであれば、特約があっても否定される可能性が高いことから、実際の損耗状況を踏まえ、改めて原状回復費用を算定することが望ましい。

補填できない部分の分割支払いに対する注意点

明渡しは完了したが、原状回復費用につき敷金では補填できない部分15万円につき、借主から分割で支払いたいとの申し出があった。貸主としては、一応その提案自体は受け入れることとしているが、約束違反の場合には法的対処できるようにしたい。どのような方法があるか。
分割払いの合意に付き、執行認諾文言付の公正証書にしておく。それが出来ない場合には、最低限念書ないし合意書といった書面を作成するとともに、当該支払合意につき連帯保証人を立ててもらうようにするなど考えるべきである。

定額補修分担金方式

定額補修分担金方式をとっているが、近年の判例で無効とされている事例もあることから、当該制度を廃止しなければならないか。
判例も定額補修分担金方式そのものを否定しているのではなく、その金額の合理性や当事者間の情報の偏在などを根拠に無効としているにすぎないと理解できる。また、一方で、定額補修分担金特約を有効とした判例もある。したがって、現段階ですべてだめだしであると考える必要はなく、金額設定や契約時の説明のあり方を考慮し、その負担を受け入れた上で、存続していくことは否定されないと考える。

敷金返還請求権を提起された場合は弁護士を代理人として選任すべきか

被告本人(法人の場合は代表者)が出席する場合には、弁護士を選任する必要はない。また敷金返還請求訴訟が簡易裁判で係属する場合には、裁判所の許可を得れば弁護士以外の代理人を選任する事ができる。(ただし、最近はなかなか認めてもらえないらしい)