FAQ
賃貸管理トラブル集
- タバコのヤニの付着
- 残地物の処分
- 事業者に対する原状回復特約の請求(事例)
- 畳替え特約(個人契約)
- 管理会社での原状回復の見積もりについて
- 借主の故意過失による原状回復
- ハウスクリーニング代の請求(特約無し)
- 鍵交換費用(契約書に借主負担記載)
- 事業用建物賃貸借の場合の原状回復の内容
- 通常使用以上の損耗における請求
- 建物の原状回復工事に関し、工事業者から請求される報酬請求権の消滅時効期間は
- 借主死亡であるが賃料は振り込まれている、自力救済は可能か
- 本人との交渉が出来ない場合
- 残存価値10%以上の請求は可能か
- クロスの張替えを請求できるか
- 通常損耗以上の劣化(フローリング)
- 共用部分に敷いてある玄関マットについても原状回復の対象となるのか。
- 原状回復において、タバコのヤニはどのように考えれているのか。契約上の特段の取り決めはない。
- ペット飼育可能物件の原状回復範囲
- 貼られた飾りシールの剥がし代を請求できるか
- 臭いの除去費用の請求は
- 借主側での無断改装を正当主張された場合
- ハウスクリーニング
- 入居時の状況が不明な場合
- 窓ガラスのひび割れ
- 借主が債務承認後に訴訟を提起した場合
- 原状回復までの期間に対する請求
- 残地物の処分費
- 退去チェックの見落としによる再請求
- 事業者に対する原状回復義務の特約は無効とできるか。
- 原状回復をこえた損害賠償
- 原状回復分の返還請求
タバコのヤニの付着
賃貸借契約が終了して借主が明渡した建物を確認したところ、タバコのヤニの天井・壁への付着状況があまりにもヒドイ状態であった。貸主は借主に対し、天井・壁の原状回復を求める訴訟を提起しても問題ないか。
通常損耗を超える部分での範囲
タバコのヤニの天井や壁への付着状況があまりにひどい状態であることが、借主の故意・過失に基づくものである場合は、天井・壁の原状回復を求めて訴訟しても問題ないといえる。ただし、貸主が借主に対して原状回復を求める事ができるのは、原則として自然損耗を超える部分であることからすると、貸主が借主から回収することができる原状回復費用はあまり高額なものにはならないと考える。
残地物の処分
建物賃貸借契約につき、借主(法人)が賃料不払いをして①コピー機(リース物件)②電話機③段ボール数箱を残置して退去した。借主の移転先は不明である。①から③をどのように処理すべきか。
慎重な対処を
借主は①から③の所有権を放棄していると思われるが、そのことが明らかになる書面等がないことから、トラブル防止の観点から、慎重に対処すべきである。まず①についてはリース会社に連絡して引き取ってもらう。②及び③については借主の登記簿謄本記載の代表者の住所に送る。
事業者に対する原状回復特約の請求(事例)
貸主と借主はビルの一室について、賃貸借契約を締結していた。なお本賃貸借契約には原状回復を借主とした特約があった。しかし借主は本賃貸借契約終了に基づき本件建物を退去するにあたり、原状回復をすることなく退去してしまった。そのため貸主は、①壁紙取り換え費用として約4万円②フロアマット取り換え費用約4万円を負担した。③未払い共益費等約12万円がある。貸主は借主に対し①から③を当然に請求できるか。
借主は事業者であることから、貸主と借主との間の本件原状回復特約は有効である。したがって、貸主が借主に対して①請求できる②建物の損耗とはいえない場合は協議③当然に請求できる。ただし、①から③の合計金額は約20万円でそれで裁判しても費用倒れになる可能性もある。差押え可能財産も不明である場合もあるのでリスク回避の為に支払催促命令の申し立てからするべきと考える。
畳替え特約(個人契約)
個人を借主とする賃貸借契約において、原状回復義務の内容として、畳替えを借主負担とする特約を締結した。この特約は否定される可能性はあるか。
消費者保護法10条や、明確な合意の不存在により、否定される可能性が高い。
管理会社での原状回復の見積もりについて
退去時精算、原状回復費用算出にあたり、借主が見積もり業者を管理会社側できめているのはおかしいと主張。どう考えるべきか。
貸主との委託の問題
原状回復にいかなる業者の見積もりをとり、いかなる業者に行わせるかはオーナーと管理会社間の委託契約の問題であり、その選択肢は管理会社に委ねられていれば、借主の言い分は根拠がない。算出された原状回復費用の金額及び負担割合の問題は協議として考えれば。
借主の故意過失による原状回復
築30年の建物で、入居期間5年の借主が退去したところ、ユニットバスの壁が割れており、また、床も漏水を放置していたことから床板が抜ける状態になっていた(このような状態になること又は漏水の事実は貸主も管理会社も一切報告をうけていない)この場合の原状回復の範囲は。
損害賠償も
この損耗と損傷は、借主の故意過失に基づくものといえ、原状回復範囲に含まれる。そして、それによって、壁や床の全面取り換えが必要となっており、これは、いわゆる原状回復の問題を超えて、借主の債務不履行に基づく損害賠償の問題と評価できる状況であるから、借主の行為と因果関係がある一切の損害賠償を請求できる。
ハウスクリーニング代の請求(特約無し)
ハウスクリーニング代などを明渡し時に借主に請求できるか。契約期間中に設備等が破損した場合の修繕はどちら負担か。
特約等が必要
原状回復には一般にハウスクリーニングの内容は含まれず、それを借主負担とする為には特約が必要である。契約期間中の備え付けの備品に係る修繕は、特約がなければ民法上貸主負担ということになる。契約段階で明確に合意しておくことが必要である。
鍵交換費用(契約書に借主負担記載)
退去時の鍵の交換費用を借主負担とする契約に基づき、当該金額を請求したところ、それは貸主の為のものであるという理由で拒否されたが、この主張は正当か。
明確に合意があれば
原状回復の一環としてとらえれば、鍵の交換負担は借主負担部分からは除かれる。ただし、特約事項として明確に合意がされたのであれば、それはそれで有効となり得る。手続き面で明確な合意があったといえる状況であったかを精査する必要がある。
事業用建物賃貸借の場合の原状回復の内容
基本的には契約書それ以外は当事者間で協議
基本的には契約書の内容による。事業用でも最高裁の基準に従い合意の有無が問われるケースがあるので、契約の内容・手続きについては十分に留意しておく。②契約書上明確になっていない場合には、修繕費用は賃料・減価償却などにより回収済であるとの原則との兼ね合いを前提に、当事者間で協議の上、範囲を決める。
通常使用以上の損耗における請求
借主の通常使用を超えた使用により損耗が生じたため原状回復を求めたが、きわめて少額しか支払わないとしている。どう対応すれば...
明確に示すことが大事
国土交通省住宅局が、とりまとめて公表している原状回復ガイドラインの基準に従い算出したものであれば、その額を敷金から差し引いて返還する。もし借主が裁判に持ち込んできた場合に備え、ガイドラインベースの算出であることを明確に示せるようにしておくことが大切である。
建物の原状回復工事に関し、工事業者から請求される報酬請求権の消滅時効期間は
民法170条の規定により、工事が終了したときから3年の短期消滅時効にかかる。
借主死亡であるが賃料は振り込まれている、自力救済は可能か
建物賃貸借の借主が当該建物内で死亡した。警察から事件性はないと連絡があったが死後1ヶ月経っている。ところが、借主が亡くなってからも賃料が振り込まれており、どうも借主の兄が振り込んでいるようである。当該建物には悪臭がキツイ事から、貸主としては早々に当該建物の原状回復をしたいところであるが、現在の状況の中、貸主の原状回復をすることには法律上の問題を生じるか。
当該賃貸借契約は法定相続によって相続人に承継されていることから、まず、当該借主の相続人を探す必要がある。そして、その相続人に連絡して合意解約をして原状回復してもらう必要がある。(なお、今後、賃料不払いとなった場合は契約解除する。)なお現在の状況では原状回復することは自力救済禁止に触れて、原則として違反である。
本人との交渉が出来ない場合
借主の退去に当たって原状回復につきトラブルになっている。借主は行為能力を有する成人であるが、保証人である親が、代理人として交渉に出てきて、埒があかない。親の代理人資格を否定してなんとか本人を交渉に引っ張り出すことはできないか。
借主本人が行為能力を有する成人である以上、親といえども法定代理人ではない。ただし、任意の授権により任意代理人とすることはできる。当該交渉において、本人からの委任状の提示を求め、それがない場合には代理人であることを否定することは可能である。ただし、これも委任状1枚のことなので、改めて委任状を取ってくればそれを否定することはできない。裁判になれば、代理人は原則として弁護士等でなければならず、親も簡易裁判の手続きにおいて裁判所の特別の許可がなされたときしか代理人になれないので、どうしても本人との対応を検討するのであれば訴訟等での対応を検討すべきである。
残存価値10%以上の請求は可能か
特約がない場合、どんなに借主の使い方が悪くて室内の汚損等が激しい場合でも、居住後10年の物件では、残存価値が10%と評価され、それ以上の金銭補償は請求できないのか
借主の利用状況があまりにひどい場合には、借主側の債務不履行に基づく損害賠償請求として、残存価値分の補填とあわせ、一定の損害賠償請求も可能な場合があると考えられる。
クロスの張替えを請求できるか
建物賃貸借契約の借主が6年で退去した場合において、クロスの張替え費用を当該借主に対し請求することは出来るのか。
クロスの損傷等については借主に故意・過失等がない場合(経年劣化)には、特約がなけれればクロスの張替え費用を当該借主に対し請求することはできない。一方、借主に故意・過失がある場合には、クロスの張替え費用を当該借主に対し、請求することはできるが、ガイドラインによれば、請求できる金額は特約がないかぎり張替え費用の10%である。
通常損耗以上の劣化(フローリング)
建物に17年間居住した借主の使用状況がひどく、フローリングを全面張替えしなくてはならない状態である。貸主は借主に対し、フローリングの張替え費用を全額請求しても問題ないか。
建物に17年間居住した借主の使用状況がひどく、フローリングを全面張替えしなければならない状態であるならば、当該フローリングの損耗は通常損耗ではなく、特別損耗であるとも言えそうである。
共用部分に敷いてある玄関マットについても原状回復の対象となるのか。
共用部分であっても借主が独占的に使用する部分については、賃貸の目的物に含まれると解され、退去時の原状回復義務の対象となる。
原状回復において、タバコのヤニはどのように考えれているのか。契約上の特段の取り決めはない。
原状回復ガイドラインでは、通常のハウスクリーニングでは除去できないような汚れについては借主側の負担としているので、専門業者の意見を踏まえ、それがハウスクリーニングで除去できない場合には、特約がなくても借主の負担と考える事ができる。
ペット飼育可能物件の原状回復範囲
ペット飼育可能として貸した物件につき、退去時に確認したところ、汚れや傷がひどく、その原状回復に40万円が必要となった。敷金から差し引き、足りない部分は借主に請求したところ、借主から、そもそもペット飼育可なのだから、それは通常損耗の範囲であるため、応じられない、敷金も全額返せと裁判を起こしてきた。どのように考えるべきか。
ペット可の物件でも、ペットがつけた傷や汚れがすべて無制限で通常損耗ということにはならない。ペットを飼育するに当たっては一定のルールがあり、そのルールを逸脱した部分は貸主の過失、善管注意義務違反の範疇に属し、その原状回復費用は、ガイドラインベースでも借主の負担となる。汚れや傷の程度、他の通常のペット飼育者における退去時の状況との比較などを裁判において証拠として提出し、上記主張をしていくことが考えられる。
貼られた飾りシールの剥がし代を請求できるか
建物賃貸借契約の借主が風呂釜に飾りシールを貼った。今般、その借主が当該建物から退去することになったことから当該シールを剥がそうとしたところ剥がれず、専門業者に依頼しても「当該シールを剥がすことはできない」といわれてしまった。原状回復費用として、どの程度の請求をしたらよいか。
本件について明確な基準はない。当該シールが貼られていることによって当該風呂釜ひいては当該建物の価値がどれほど低減したかが基本的な考え方である。
臭いの除去費用の請求は
マンションの一部屋の借主が退去することになったが、部屋がにおう。この臭いを除去する費用を原状回復費用として敷金から差し引くことは認められるか。
当該臭いが通常の使用・収益でつく程度のものではなく、当該臭いを除去するために特別な業者に依頼する必要があるような場合には、当該臭いの除去費用は借主が負担すべき原状回復費用として敷金から控除することが出来る。
借主側での無断改装を正当主張された場合
契約が合意解約となり、明渡しの段になって、当初タイルカーペットだったのが、借主の無断でクッションフロアーに変えていたことが判明したため、その原状回復を求めたところ、クッションフロアー化したことで物件の評価も上がり、貸主も得をしたのだから原状回復はしない。逆に当該工事費用を請求したいくらいであると反論された。どのように考えるべきか。
借主の主張は、クッションフロアー化は有益費に該当するとの主張であるかと考えられるが、クッションフロアーがタイルカーペットよりも価値が高いとは一般的に言えない。逆に汎用性がなくなることによって賃貸物件としての価値が下がると考えることもできる。したがって、有益費に該当するとはいえないし、そもそも無断改造は契約違反行為に当たることから、現状復帰、損害賠償請求が可能である。借主の主張は根拠がないと考える。
ハウスクリーニング
契約書や重要事項説明で、ハウスクリーニングは借主負担であることを決めて説明してあればその内容に従って費用請求をしても問題ないか。
ハウスクリーニングには通常損耗の補修としての性格が含まれているため、それを借主負担とする場合には最高裁の基準に明確な合意が必要とされる。契約書や重要事項説明書に記載があるだけでは直ちに明確な合意があったとは評価されない。借主が当該負担を理解し、了解した旨の手続き面での対応が要求される。
入居時の状況が不明な場合
オーナーチェンジがあり、借主もそのまま引き継いだ新所有者からの相談。借主が退去するので、明らかに利用者側の故意過失に基づくフローリングの傷について原状回復を求めたところ、傷の一部は入居当時からついていたもので、自分には責任がないと主張している。前所有者とは連絡が取れず、借主の主張が真実かどうかも不明である。どのように対応すべきか。
借主の入居時の状態につき資料がないことから、借主自身の主張自体の信憑性を判断するしかない。例えば通常の借主であればそのような傷があれば修繕の請求をするはずであるとか、あるいはそれを織り込み済みで賃料が周辺相場よりも安くなっていることが経験則上は考えられるが、その点何も特別な配慮がないことなどを指摘し、借主の主張は虚偽の可能性が高いことで争っていく余地もある。ただし、このあたりの主張立証は双方とも大変困難であることから、費用対効果も考慮して対応を検討すべきである。
窓ガラスのひび割れ
借主が退去するので中を確認したところ、窓ガラスにひびが入っていた。専門家が調査したところ換気が不十分であることによる内外の温度差によって当該状況になることも考えれるという。この場合、当該ガラスの交換費用は貸主、借主のどちらが負担すべきか。
借主の行為によるひび割れであれば借主に負担を求めることができるが、その点が不明確であり、物理的にも換気の関係から生じた可能性が否定できない以上、自然損耗として貸主が原則として当該交換費用を負担するのではないか。換気が不十分であることが借主の善管注意義務違反と評価することは困難と考える。(ただし通知することなく長期間不在にし、何らかその間の対応をしていないなどの特段の事情があれば、借主側の責任も問いうる可能性は出てくる。
借主が債務承認後に訴訟を提起した場合
原状回復・修繕費用として60万円かかる事案で、貸主と折半の上30万円を借主負担とし、敷金(24万円)で充当しきれない6万円につき支払いがなされた。ところがその後、借主が支払い済みの金員及び敷金の返還につき訴訟を提起した。このような借主の言い分はみとめれらるのか。債務を承認したことにはならないのか。
借主が了承して支払った金員については、一般論としては債務を承認した事として、あるいは禁反言の法理に基づき容易には撤回できないということはできる。ただ本件の場合には前提である情報が不十分のまま了承したにすぎないという点で争われる余地が高い。貸主との折半であること、(全額を一方的に借主におしつけてはいないこと)内部状況がひどいということ、(故意重過失による損耗で損害賠償的側面が強いこと)、支払いに至る経緯、(借主が十分に理解したこと)などを立証することを通じ、借主の故意重過失による損耗で、借主も十分に納得して支払ったということを主張していく事になるだろう。
原状回復までの期間に対する請求
通常損耗についての原状回復義務を借主が負担する特約がある事業用建物賃貸借契約において、借主が原状回復を全くせずに建物を退去した場合、貸主は借主に対して、原状回復に要した期間の賃料相当額を請求する事はできるか。
義務未履行として
本件のような契約の場合、本来、借主が原状回復をした上で建物を明渡す義務を負っているともいえる。とすれば、借主が原状回復を全くせずに退去した場合、貸主において原状回復を実行するに要した(合理的な)期間については、借主が建物の明け渡し義務未履行として、賃料相当額を請求することができるとの解釈も可能と考える。
残地物の処分費
賃貸借契約終了後に建物を引き渡した借主が冷蔵庫を2個残置して出て行った。残地物の処分については元借主が同意しているので処分したいが冷蔵庫の処分には1個あたり5万円で(2個で10万円)の処分費がかかる。この処分費は貸主が負担しなければならないのか。なお、現在、元借主との連絡はつかず、連帯保証人とはつくが、処分費の負担には応じない。
本来借主の負担だが...
冷蔵庫の撤去は借主の原状回復義務の範囲内であることから、当該冷蔵庫の処分費は、本来、借主が負担しなければならないものである。ただし、借主及び連帯保証人に資金力がない場合、結果としてその処分費を貸主が負担する事になってしまうというのが実情である。
退去チェックの見落としによる再請求
建物の借主が8年間居住した後、期間終了で退去する事となり、退去日の夜、貸主は退去に立会い借主と原状回復の範囲を確認した。しかしその後、昼の明るいところで確認したところ(ペット禁止特約があるにもかかわらず)借主は犬を飼っていて、糞尿で畳及び(畳の下の)床が相当に汚れていると判明した。貸主は借主に対して、畳、床の補修費用を請求する事はできるのか。
特段の事情がない限り難しい。
畳の汚れは夜でも確認する事はできたといえることから、一度請求を放棄したものと評価され、特段の事情がない限り貸主の借主に対する畳の補修費用の請求は認められないと考える。一方、床の汚れについては、明渡し日に(畳の下の)床まで確認する事は困難であったといえることから、床の補修費用の請求は認められる可能性があるといえる。ただし、床を新品に取り換える費用全額の請求は認められない。
事業者に対する原状回復義務の特約は無効とできるか。
現段階でいえるのは、新築のオフィスビルの賃貸借契約に付された原状回復条項に基づき借主は、賃借当時の状態にまで原状回復してビルを返還すべき義務があると判断した判例がある。(東京高裁平成12年12月27日判決)
原状回復をこえた損害賠償
未成年者の借主、親が連帯保証人となっている。家賃の滞納等いろいろ問題があった後に今般中途で(入居後10カ月)で契約を終了し、退去となった。ところが物件を確認したら、ドアの破損、通常損耗とは考えにくいくらいの汚い状況であったため、敷金から当該補修費用を差し引き、それでも足りなかったのでさらに追加費用を請求したところ、本人も親も、そのような負担には応じないと回答がなされた。
請求すべきである。
借主側は、原状回復の問題と損害賠償の問題とを混同している。本件では原状回復というより、明らかに債務不履行・不法行為による損害賠償の問題であって、借主は応ずべき義務がある。また、仮に原状回復の問題としても、通常損耗をこえるものであることから、借主負担であることにかわりない。損害額の算定をしっかり行ったうえできっちり請求すべきである。
原状回復分の返還請求
5年前に退去した借主から、当時の敷金の処理につき、原状回復分を返還せよとの通知が来た。この場合の対処は。
権利の濫用
原状回復の一般論からすると、通常損耗か否かの問題や特約の有効性などを考慮して返還すべきか検討する事になる。しかし本件については、5年前のことであり、敷金の返還の際及びそれ以降のなんの苦情もなく、5年経過して突然に請求がなされたという事情を考慮すれば、借主もその扱いを認めていたと評価する事も可能であり、それを覆す正当事由がない限り、権利の濫用ということもいい得るのではないか。